『開いた穴は隠せ!』   

投稿者・芳香☆


小さな失敗なら毎日のようにやってるからなぁ。
でもって、この能天気な性格で、片端から忘れてゆく。
だからあんまり覚えてないんだけど。
えーと・・・・・今ふと思い出した失敗は、あれかな――――車。
自動車免許を取ったばかりの頃にやってしまった、あの失敗。


クリスマスに免許を取り、年が明けた、1月。
不精をして、車の屋根に積もった雪を下ろさずに、そのまま乗った。
初心者丸出しのたどたどしい運転で出かけ、たどたどしく帰って来た。
何事もなく戻って来れたことにホッとしながら、家の前の駐車スペースに頭から突っ込む。
雪でちょっとした段差ができていて、よっこらしょ、という感じでのぼると、車体が思いのほか揺れた。
そしてその時、それは起きた――――――

突然、数十センチも積もった屋根の上の雪が、ドドドドー、ってフロントガラスの上に落ちてきた。
前が全く見えなくなった。目の前真っ暗ならぬ、目の前真っ白=B
そして・・・・・・・・

ドォン、という衝撃。・・・・・・・・おやぁ?

はい、そうです。
玄関横の壁に、見事に突っ込んでおりました・・・・・・・
降りて確認してみると、壁がぐっしゃりとへこみ、ヒビが四方八方に。
「・・・・あっちゃぁ」
家の中に入ると、穴のあいた壁のちょうど裏側に位置する下駄箱が、15センチ以上もずれておりました。

その夜、ダンナに呆れられました。
「前が見えなくなったらブレーキを踏むだろ、普通は」
いいえ、ちゃんと踏んだんです。いえ、踏んだんだと思います。(視界を突然遮られたことに動揺してあまり覚えてはいないのですが)
踏んだはずです。アクセルから離していたその足で、ブレーキのつもりで再びアクセルを・・・・・



借家なんです。
大家さんは、向かいの家に住んでいます。

雪が解けた春。
ダンナは花台を日曜大工しました。
玄関の横にそれを据え、そして鉢植えを飾りました。
朝、私はそれに水をやります。
時々顔を合わせる大家さんににこやかに挨拶をしながら。

花が枯れ、鉢植えが役に立たなくなった冬。
一箇所だけ、何故か雪かきされていない玄関周り。
というか、そこだけ不自然に雪が積み上げられておりました。


そうして日々はゆったりと流れ、そして一年後の冬。
ダンナの転勤が決まり、引っ越すこととなりました。

最後の挨拶の時、大家さんの家の玄関先で、私は言いました。
「玄関の横に花を置く台を作ったんですけど、置いていってもいいですか?」
「あら、いいんですか?」
「今度の家はマンションなので持っていっても使えないんです。次に入居された方にでも使っていただいてください」
「すいませんねぇ」
何故か恐縮する大家さんに、私は ぎこちなく にっこりと微笑んで、これまでのお礼を述べ、お別れをしてまいりました。


雪が解けて、春が来て・・・・・大家さんと、次の入居者と、壁の穴――――それらがどんな局面を迎えたのかは・・・・私のあずかり知らぬことでございます・・・・・・・・。





《管理人より一言》
大家さん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・・・


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